ユニットセットアップ・スピーカーシステムのすすめ 第5話~エージング~
【 ユニットセットアップ・スピーカーシステムのすすめ 】
audio union 町田店 : 西村 巧
第五話 『 エージング(Aging) 』
---------- 前回からの続き・・・ 特注製作の 3way Sp.システムは
果たしてお客様宅でも威力を発揮出来るか! ----------
先日、横川様が成約された特別制作のユニットセットアップ・スピーカーは、無事納品となったのだが、当日その彼から電話が入った。
「今 音出したんだけど・・・そっちで聴いた時の印象よりも騒がしいと云うか、押し付けがましい感じに聞こえるのは・・・何故だろう?」
「今 結線して音を出したばかりならば、まだ音質については判断しない方が良いですね。最初の数時間で大きく変化します・・・で 音量にもよりますが、そこならば毎日鳴らして3~4日間、余分に見積もっても1週間と経たないうちに落ち着くでしょう!」
「そうですか・・・でもBOX以外は全部中古なんだから『エージング』は済んでますよね?」
「はい、エイジングというよりはFit…Comfort…Stability…」
「はぁ~この場、つまり設置ポイントや環境に馴染むって事かぁ」
「はい、そちらで使われているアンプに動かされる事も含めて・・・」
「アンプとの相性もそうかぁ~。了解!鳴らし込んでみるよ」
そう言って彼は、納得した様子で話を終えた。
スピーカーシステムは振動して音を出すモノなので『据わり』が安定しないと本領発揮しない。床面とSP.スタンドとの安定性、SP.スタンドとシステム本体との安定性が保たれてこそ本来の能力で仕事をしてくれる。部屋の模様替えや大掃除なんかでSP.を移動した際に、直後の再生音に落ち着きが無い・・・なんて感じた事、皆さんも一度や二度は経験されてるんじゃないでしょうか。
それと・・・音源⇒アンプ⇒スピーカーの組み合わせや、それぞれを繋ぐケーブルとの相性ってやつも無い訳ではない。これらが一体となって音楽を表現する訳だから『馴染む』と『馴染まない』とでは大きく音質に関わってくるので、当初の数時間は調整やチューニングも侭ならず、安定するまでは、じっと待つしかない。
さて、本題の『エージング(エイジング=Aging)』・・・本来の意味は『老化』だが、オーディオ業界では、時間経過と共に歪みや硬さが取れ、成熟し、味わい深い音になる様を指してそう呼ぶ。よく・・・新車の慣らし運転に例えて説明される事が多い。とは言っても、そのシステムの最良な表現力は使用時間と共に際限なく向上し続ける訳では無い。上記の通り、毎日3~4時間程鳴らしたとして1週間も経てば、充分に落ち着いて安定するものだ。確かに、環境や音量にも左右されるので一概に言い切れないが、聴感上は概ね使用開始から20~30時間が目安。それ以上時間を要するものは、製品そのものやそれらを繋ぐケーブル類に不安定要素を多く含み持っている為で、そういった商品を作っているメーカーに対して、ある種の疑問さえ感じる。
また『 Aging time: 200H~ 』との表記を目にした事が有るが、通電24時間×8日間=192時間を越えている設定・・・とは? 自動的にクーリングオフ期間を過ぎてしまうのは何故だろう?
そしてまた、或る国内SP.メーカーの製品を購入したお客様から、音質改善を求めて悩みを打ち明けられた事も・・・。以下、当時のメーカーとお客様とのやりとり(抜粋)。
「当社のSP.にはボロンとチタン合金の振動板が採用されておりますので、最初のうちは硬質に感じられるかも知れませんが、エージングに充分時間をかけて頂ければ日を追う毎に滑らかな表情に変化して行きます」
「もう購入から半年過ぎますが・・・」
「6ヶ月間ですか・・・もう、こなれても良い頃ですね。ずっと小音量ですか?」
「はい、一般家庭ですから大音量は出せませんので」
「小音量ではエージングも進みませんから、場合によっては何年もかかる可能性が・・・」
「その間は我慢して聞いとれ・・・と?出荷前のエージングはやらないんですか?」
「いいえ、出荷前に工場内で24時間以上のエージングは行っていると聞いておりますので、接続機器との相性や設置環境に問題があるかも知れませんね」
とまぁ~こんな具合で、自社製品以外の設置環境等に責任転嫁する事も・・・。このお客様も当店でSP.を買い換えて頂き、今は存分に音楽を楽しんで居られる。
ついでに、エイジングと深く関係する『アニーリング (Annealing) 』についても話を・・・これは知って損は無い情報!(金属加工関係にお勤めの方々は皆様ご存知ですが)。
アニール=焼鈍(焼きなまし)は、様々な種類の金属やガラス等を加工する際に欠かせない作業工程の一つだ。その目的は、原材料を加工する前に熱を加えて硬度を低下させたり、原子や分子レベルでの組織調整を行う事で切削性を良くしたりするに留まらず、プレスや曲げ加工の後に熱を加える事で、残留応力を取り除いたりと・・・色々有る。
金属ドームのスコーカーやツィーターを採用しているSP.は多いが、この金属ドーム・・・元は薄くて平らな金属板を凹凸型に挟んでのプレス加工が殆ど。当然この工程の直後にはアニール処理を行っている筈である。しかし、その後のヴォイスコイル取付け~磁気回路への組付け工程・・・ましてユニット完成状態では、その処理がなされていない様子である。このユニット単体内部に在る残留応力(内部ストレス)も音質に大きく関わっている。
さて、納品から一週間程経過した3wayセットアップSP.の横川様に電話を入れてみた。
「スピーカーの調子はどうですか? そろそろ、落ち着いた頃かなぁ~と・・・」
「あぁ~バッチリですよ!でも最初の3時間は随分と変化が大きいもんなんですねぇ~驚きました! 昨日バンド仲間が3人来て、数曲聞いてましたが・・・皆感心してましたね」
「そりゃ~良かった!また、何か有りましたら、お気軽にご相談下さい」
「はぃ、次はパワーアンプを考えていますから、その時またお願いするつもりです」
本題に戻って『エージング』の話!先行説明の通り『歪』や『硬さ』が取れて機器本来の性能が充分に発揮される状態になれば、その先数年間は安定的に作動してくれる。
私が推奨しているホーンタイプのシステムならば、その能力は一般的なSP.システムの10倍以上長持ちと云っても過言では無いだろう。
現に 1930年~1940年代の Western Electric社のホーン型SP.や1950年代のALTEC Lansing社JBL社のホーン型SP.を今尚ご愛用のお客様も多い(・・・とは言え 全くのメンテナンス・フリーでは無いので、それなりに点検~調整は必要)。
そのMachine Conditionを良い状態に維持する事は決して難しい事では無く、ソース(音源)の再生機であるレコード・プレーヤーやCDプレーヤー、そして増幅部のアンプ等と比べればAudio機器の中では至って楽なもんです。・・・簡単には壊れませんから(^^)v。
つまり、非常にQualityの高い良い再生音(記録物に正しい音)を長きに渡って、安定して表現し続けられる!って当たりがユニットセットアップSP.を薦める『ミソ』な訳です。
『何か・・・好い事尽くめじゃないか!それ程までにメリットが多いなら、何でスピーカーの主流にならないんだ?』と声が聞こえた様な気がしたが・・・。
それは、次回へと。
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