ユニットセットアップ・スピーカーシステムのすすめ 第2話~聴き疲れるとは(前編)~
【 ユニットセットアップ・スピーカーシステムのすすめ 】
audio union 町田店 : 西村 巧
第二話 『 聴き疲れるとは?(前編) 』
「おっ!今日はチャイコのピアノ協奏曲ですか・・・家でもこんな音量で聴けたらなぁ~」
「いらっしゃいませ!久しぶりですねぇ~戸越さん」
「家は広くもないし防音対策もされてないから、いつも音量は小さめ・・・休日にはちょっと大きくする事も有るが、10分~15分と聴いているうちに音量を下げちゃうんだ。 何か・・・騒がしい感じがするんだよ。 それなのに、何でここでは この大音量でうるさくないんだろ、Amp.が良いから?」
ご来店の戸越さん(仮名)、高校~大学と吹奏楽部でフルートを演っていた事も有り、聴く音楽の半分はClassic。しかし、自宅のシステムでは小編成が殆どで大編成はあまり聴かないらしい。大編成・・・オーケストラものが嫌いなのでは無く、各所コンサートホールでの生演奏には年5~6回は通っているとの事。 自宅にあっても時に大音量で楽しみたいものだが、どこを改善したら良いやら・・・お悩みの様子だった。
この手の問題は大概スピーカーの『歪』が原因・・・それも戸越さんの場合は2種類の異なったタイプの歪が悪さをしている。普通に音楽を楽しむだけなら、多少の『歪』は気にならない所でしょうが、彼の様に楽曲全体の中から編成の各パートを拾って聴き込むタイプの人にとっては大いに気になる問題点だろう。
私は店内に陳列してあるSP.群から、彼が所有するシステムと同じメーカーの最新システムを選び、セレクターで切り替えた。そして、聴感上 今迄と同じ音量になる様に調整し、まずは聴いてもらった。
「これは疲れる・・・これって、俺が家で今使ってるシステムより上のグレードだよねぇ・・・しかも最新モデル!音量を上げると騒々しくなる点は改善されていないんだなぁ~」
「この点は部屋の広さとは無関係にSP.自体の構造上の問題ですから、今後も解決されないと思われます」
「解決不能? 昔からClassicの再生には評判のメーカーなのに・・・」
ちょっとガッカリした様子の彼。
ここは私PROですから ⇒『聴き疲れ』の原因と、彼のシステムに付帯する二つの問題点に着目した。
その一つ:何故 戸越さんのシステムは音量を上げると騒がしくなるのか?
二つ目は:何故 自宅では大編成を楽しめないのか?
そこで、『聴き疲れ現象』を説明する前に、まずこの2ポイントを正しく認識して頂いた上で、前に進んで貰いたいと思ったのだ。
「戸越さん、会話にも支障が有るんで、さっきまで鳴らしてたシステムに戻しますよ」
そう言って私は比較前のDEMO状態に戻した。
「うわぁ~!こっちは聞いていて本当に楽だ・・・」
改めてホーン型のセットアップシステムを聴き直した彼は、そのシステムの実力が解った様子で、俄然興味を持ち始めた。
「本当に上手く表現出来てるなぁ~、でもこんな大きなSP.は部屋に入らないし・・・」
「サイズや価格はとりあえず後回しにして、戸越さんの趣味に合った満足の行くオーディオ・システムに仕上げなければ問題は解決しませんから、現在使用のシステムを詳しく教えて下さい。それと再生状況も・・・」
私は彼の話の内容をメモにしながら、システムの改善点を探った。とりあえず音源(CD)→増幅部(AMP.)は今のままで良いとして・・・やっぱり出口(SP.)に問題有りと感じた。さて、スピーカーは・・・彼の部屋に置く物として許される大きさや色・形、それにも好き嫌いは有るだろうし、何といっても彼自身がフルート奏者だから本物の音を知っている・・・誤魔化しは効かない(元々ゴマカすつもりは無いが・・・)。
---------- この度の悩みの種 2種類の『歪』について ----------
その① 音量を上げる程に騒々しさが増す現象:高調波歪 [ Harmonic Distortion ]
これは、分割振動(共振)と云われる現象で、振動板に追従運動(ピストンモーション)限界を超えて仕事を与えると、振動板表面に様々な分割模様(クラドニパターン)を描き、音量変化と共に形状も複雑に変化する為に起こる。
つまり、激しい振幅運動中では振動板としての円錐コーン形状が保たれず、『ゆがみ・たわみ』を起こしてAMPからの電流信号通りに正しくモーション出来なくなる為だ。
2倍・4倍・6倍分割振動等、偶数次高調波は基音に数オクターヴ上の音が混ざって出るだけの事なので、和音の中に埋れてしまって雑味にはならないが、3倍・5倍・7倍分割振動の様な奇数次高調波の場合は不協和音となる為、耳障りな印象を受ける。
実際の音楽Soft再生においては、収録された元音源に無い音がSP.により付加される為、音像の定位感が不明瞭になったり、雑味が増えて騒々しくなる事で演奏が上手く無いと感じたり、楽器自体の響きや伸びやかさが無くなったり、収録環境の余韻がかき消されたりと、聴き取り難くなる。
その② 同軸2way構造が持つディスアドバンテージ:変調歪 [ Modulated Distortion]
単一振動板(フルレンジ)は勿論、ウーファー(低音部)の中にツィーター(高音部)を配した構造を採る全てのトランスデューサー(変換機)は、ドップラー効果(現象)から逃れられない宿命を持っている。
Hi-Fi再生を望むならば、この手のユニットは生まれた時から不利な構造と言えよう。中央部のTweeterユニットが、いかに歪無く澄み切った高音域を再生しようとも、その出口付近ではWoofarユニットから発せられる低音に叩かれ、多大な干渉を受けるのは必至だ。
音楽再生上、困る事は・・・ドップラー効果による高音域の濁り、ピッチのズレ、楽器本来の音色が損なわれる事だろう。
-------------------- 次回は核心に迫る・・・ To be continued(続く)
【 2012.05.11 改訂版 】
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